HGAについて

代表あいさつ

代表あいさつ

「糖鎖」の情報を読み解き、生命を理解する
ヒューマングライコームプロジェクト(Human Glycome Atlas Project)

代表

門松 健治

「生命とは何か。」これは人類にとって宇宙の起源と同じくらいに奥深いテーマです。20世紀中期に分子生物学が勃興し、1953年にはDNAの構造が解かれました。これによりDNA→RNA→タンパク質という生命情報の流れの基本原理が明らかになりました。 それでも、私たちは未だに多くの病気に悩まされ、その成り立ちも、治療法も知りません。さらに、長寿の時代を迎え、老化、認知症といった現象や病気が新たな課題として浮かび上がってきました。私たちが未だに生命を理解していないのは、これまでに「欠けたピース」があったからではないでしょうか。

 私たちの体には生命を担う3つの鎖があります。核酸(ヌクレオチドの鎖:DNA、RNAなど。DNAはゲノムの本体でもある)、タンパク質(アミノ酸の鎖)、そして糖鎖(単糖の鎖)です。1990年から始まったヒトゲノム計画は、2003年に一人のゲノム全長の構造(シークエンス)を決めました。その後の技術革新により、今やゲノム医療が実現しています。タンパク質については2002年に始まったタンパク3000などの国家プロジェクトにより、多くの構造が解かれました。ただ、核酸もタンパク質も鎖の結合様式は一種類なのです(ひと筆書きで書ける)。一方、糖鎖は結合様式が複数あり、分岐もあり、構造が格段に複雑です。構造が多様なため、DNAやタンパク質では常識となったシークエンサーがいまだに存在しません(ひと筆書きでは書けない)。すなわち、「欠けたピース」とは糖鎖でした。だから、今まで多くの科学者は糖鎖を避けて生命を理解しようとしてきました。しかし今、技術は長足の進歩を遂げ、糖鎖の全構造解読が可能となる時代を迎えようとしています。糖鎖は37兆個と言われる私たちの体の全ての細胞の表面を森のように覆います。例えばABO血液型は糖鎖で決まります。インフルエンザの薬タミフルも糖鎖を標的にしてできました。血液透析やECMO治療に欠かせない薬であるヘパリンも糖鎖です。しかし、これは氷山の一角にすぎません。糖鎖については未だに知られていないこと、分からないことがほとんどです。

 グライコーム(glycome=glycan + ome)とは、生物や細胞に含まれる糖鎖全体を意味します。本プロジェクト「ヒューマングライコームプロジェクト(英語名、Human Glycome Atlas Project)」では、ヒトの糖鎖情報の「カタログ化」を実行することで、生命の基盤データとして構築、その共有化を図ります。これが本プロジェクトの精神です。構築するナレッジベース(単なるデータの蓄積ではなく、これに様々な知見・情報の加わった「ナレッジベース」と呼びます)はプロジェクト開始後8年目に完全公開を目指します。糖鎖の情報が当たり前のように生命科学の分野内外で使われ、ゲノムやタンパク質をはじめとする多様な情報との組合せが可能になります。このことによって生命や病気の理解が大きく前進するでしょう。さらに、本プロジェクトは糖鎖の解読技術を進歩させます。これはDNAシークエンサーがそうであるように、生命科学と医療への応用が期待されます。また、本プロジェクトでは私たちの体の中で糖鎖が合成される仕組みの基盤的データを取得します。これにより糖鎖の自在な改変、医療への応用を目指します。これらの動きは我が国の産業の新たな展開を産み出し、個別化予防も視野に入れた新しい社会システムの構築にも資するものとなります。糖鎖は日本が牽引してきた強い学術分野です。その関連遺伝子の6割を日本人が発見・同定し、その基盤的技術の多くが日本発です。従って本プロジェクトは、日本が先導するプロジェクトとして踏み出せます。既に世界の研究者とその戦略を共有しています。共同利用・共同研究拠点「糖鎖生命科学連携ネットワーク型拠点」と連動して、オールジャパン体制で本プロジェクトを推進してまいります。皆さまのご理解とご支援をお願いいたします。

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